”0.007%”をどう伝えるか

2013年に定期接種になるも、接種後に全身の痛みが出るなどの報告が相次いだことから、国による積極的な接種の呼びかけが中止されている子宮頸がんワクチン(ヒトパピローマウイルス=HPV=ワクチン)。国からのの勧奨中止よって、子宮頸がんワクチンの接種率が65%から4%に激減していることはすでに日本産科婦人科学会で報告されています。こちらのBlogでも、子宮頸がんワクチンについては何度か取り上げてきましたので、ご存知の方は多いかと思います。

この報告によると、子宮頸がんワクチンの接種対象年齢前後の娘を持つ母親1,000人を対象にしたアンケートで、子宮頸がんワクチンの接種を中断もしくは接種していない理由は
  国の積極的な接種呼びかけの中止(37%)
  報道で副反応が心配になったから(34%)
  娘が嫌がったから(13%)
であり、親の判断や意向がワクチン接種に対して大きな影響力を持つことがわかります。これから子宮頸がんワクチンの接種を促進するためには、母親の意識を変える働きかけが重要というわけです。

先日、日本ワクチン学会で興味深い発表がされました。
ワクチン未接種の娘を持つ母親2,060人を対象の調査で、娘にHPVワクチンを条件なく接種させる意向のある母親はわずか0.2%、一方、厚生労働省の積極的勧奨が再開されたとしたら接種させる と答えた母親は21.0%でした。次に母親らに対して
「子宮頸がん予防ワクチンは世界120カ国で接種されており、効果と安全性の高さが証明されています。日本でも、接種を受けた方のうち99.993%の方は重篤な副反応などなく、健康に暮らしています」
といった接種を勧奨するメッセージを見せたところ、厚労省による積極的勧奨が再開されたとしたら27.3%の母親がワクチンを接種させる と回答しており、メッセージを見せる前の21.0%に比べ有意に上昇していたそうです(P<0.001,Fisher法)。

子宮頸がんワクチンによる重篤な副反応の発生率は0.007%と報告されています。0.007%の危険性、この数字を伝えるのに、
“重篤な副反応の発生率は0.007%” と伝えるのではなく
“99.993%は重篤な副反応がない” と伝えるだけで
有意差のある行動変容が起こる可能性を示した報告だと考えています。

もちろんワクチンの副反応に対する研究や適切な対処は、これからもしっかり続けられていくべきだと私も思っていますし、副反応で悩んでおられる方のサポートはまだまだ必要です。しかし世界的に言えば、子宮頸がんワクチンの導入以来 7-8割の接種率を維持しているオーストラリアではすでに、HPVが原因の疾患=子宮頸部の前がん病変(がんの前段階)や尖圭コンジローマ(性器などにイボができる病気)が減少しているというデータがあります。数年後には子宮頸がん発生数自体が減った という報告がなされることでしょう。だからこそ、冷静な目での判断が必要な時期がきているのではないか、など考えています。

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