ヨガの世界における新しい試みに対して@ヨガフェスタ横浜 2015

今年のヨガフェスタでは、さまざまな初となる試みが見られました。

まず、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた取り組み「アスリートヨガカンファレンス」。オリンピックを目指すクラスの日本のトップアスリートを束ねる日本体育協会などからの要請で、アスリートへのヨガ指導を提供する必要があります。まず、アスリートへのヨガ指導を行うインストラクターの登録・管理、アスリートへの指導の依頼、広報などを一手に束ねる「アスリートヨガ事務局」が設立されました。

今回はケンハラクマ先生、ヨーガ療法学会の木村慧心先生、元プロスノーボーダーでヨガインストラクターの河合呂美さんが登壇され、ほぼヨーガ療法学会の見解にもとづいたアスリートへのヨガ指導についてのプレゼンテーションが木村慧心先生からありました。
こちらはまだまだ始まったばかりの取り組みですから、これから西洋医学的=スポーツ医学の立場からのアスリートにたいするヨガの恩恵 についてもお伝えしていけたらと思っています。

次に、「おとなの保健室」という取り組みでは ①身長 ②BMI ③体脂肪率 ④筋肉量(脚点) ⑤握力 ⑥垂直跳び ⑦背筋力 ⑧立位体前屈 ⑨歩行 ⑩姿勢 の各項目を身体測定することにより、自分のからだを知る という試みがなされました。オプションの項目として ・骨密度 ・眼の若さ ・卵巣年齢 ・栄養 ・心の状態 ・冷え など測定できる とされていました。婦人科を専門とする者としてはその判定が微妙だなと思わざるを得ない点もありましたが、自分のからだに目を向ける という点では新しい取り組みだなぁと感じました。

また、今回のヨガフェスタ開催期間中に、”女性のためのヨガ” に取り組む方たちが集う組織が設立されました。”女性のためのヨガ” という考え方をどのようにとらえるか、まずそこが議論の的となるかもしれません。まずもって現在の日本のヨガは9割近くを女性が占めており、わざわざ「女性の」と銘 打たなくても女性にむけたプログラムが多いのも現状です。その中で、あえて”女性性”に着目するのであれば、企業・組織をこえて広く”女性のためのヨガ”に取り組む指導者に声をかけ、みなで裾野を広げていく必要があるのではないかと感じました。
当然、私も”女性のためのヨガ”に取り組んでいるひとりですから。

もうひとつ目についたのが「がんサバイバーヨガ協会」の設立。こちらはがんを克服したヨガインストラクターによるクラス、がん患者向けのクラス、がんサバイバーを支える人たち向けのヨガ など、がん、がんサバイバー といったキーワードでヨガを開催している指導者が連携を持つことを目的として設立された協会のようです。
卵巣がんを10年以上専門として研究・治療にあたってきた私からすると、「がんサバイバーヨガ」という括りやそのネーミングには、思うところがたくさんあります。
がんのサバイバー とひと言で括られるひとたちには、その重篤度、予後にものすごく幅があるということ。たとえば子宮頸がんひとつ挙げたとしても、子宮頸がんのサバイバーには 早期発見でき円錐切除術(子宮頚部のごく一部のみを切除する手術)をして完治した方と、標準的な子宮頸がんの治療(=広汎子宮全摘術:子宮+膣の一部+両側卵巣・卵管+骨盤内リンパ節+大網 の切除)を受け、再発がないか毎月心配しながら過ごす方 では、雲泥の差があるわけです。乳がんにしてもしかり。部分切除で乳房を温存でき、後療法(手術後のホルモン療法や化学療法、放射線治療など)なしで過ごせる方 と、全摘の上リンパ節の郭清をし、後療法もバリバリの方 では、まったくもって違うわけ。
それだけ幅がある方たちに、ヨガの有効性などを提示できるものなのか。早期発見・完治できた方たちが元気に生きていくために、ヨガが効果があるだろうことは容易に想像できます。逆に、さまざまな臓器を摘出したケースでは、そのまわりの血管やリンパ管は一緒に摘出、結紮され流れがない もしくは滞っている ことは当然のことですから、血流を良くする という意味だけでも有効性は確実でしょう。ただ、それらのケースすべてを一緒にして、効果があった とまとめる意味があるのか、新しくサバイバーとなった方に提示できるものなのか。正直、考えてしまいました。
「がんサバイバーヨガ」については、私も興味を持ってながめていきたいと思っています。
(注:サバイバー=生存者、生き残った人 と言う意味で用いられていると考えられます)

以上からも感じていただけるとおり、”医療”の方面に”ヨガ”が距離を縮めているように見受けられる動きがあるようです。
医療には限界がありますが、ヨガにも当然 限界があります。人を癒す その力をヨガは持っていると思います。しかし、人を治す その力をヨガが持っているか、そこには疑問符がつきます。基本的には「健康~病気未満」の方 にヨガは有効であると私は考えています。”西洋医学”と代替医療を代表する”ヨガ” のいいとこどり を勧めている私ですが、あくまでそれぞれの得意分野にお互いが土足で踏み込む必要はない と思っています。

以上、ヨガフェスタにおける新しい流れ、それらに対する私の思い でした。「アスリートヨガカンファレンス」以外の3件については、私自身がいち来場者として得た情報からの思い、感想です。それぞれを否定するものではないことをご承知おきください。

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