低用量ピル『ヤーズ配合剤』血栓症リスクについて

1月17日、厚生労働省から低用量ピル『ヤーズ配合錠(以下ヤーズ)』(バイエル薬品)について、2010年11月の販売以降、副作用とみられる血栓症で3人が死亡したという発表がありました。ヤーズの利用者は延べ18万7千人にのぼります。私もその良さとリスクを理解し、よく処方している薬ですので、発表があってからのこの1週間、情報収集してきました。現在ヤーズを処方され、内服しているため不安になって受診された方も連絡をくださった方もいらっしゃいますので、問題となっている血栓症のリスクについてまとめてみたいと思います。

画像1

ヤーズは2006年アメリカで投与開始された低用量ピルで、日本では2010年11月から使用されています。2013年6月に最初の死亡例が報告されました。20代女性、ヤーズ内服開始から13日後に脳の血栓(脳静脈洞血栓症)により死亡。2例目は死亡から4日目に自宅で発見された10代女性で、解剖の結果、肺の血栓(肺動脈塞栓症)が見つかっています。今月報告された3例目は40代女性が肺と足の血栓症(肺塞栓症・下肢深部静脈血栓症)により死亡したとのことです。

1例目と3例目は足や頭の痛みを自覚し内科や整形外科を受診していましたが、重篤になるまで血栓症と診断されていませんでした。血栓症は早期の治療により重症化を防ぐことができる可能性があるため、ピルを内服している方に血栓が起こるリスクをもっと正しく知っていただくことが大切かと思います。

2013年12月27日、日本産科婦人科学会は低用量ピルを内服中の方へ、一般向けの見解を発表しています。以下日本産科婦人科学会HPからの抜粋です。

♦ 静脈血栓症などの有害事象もあるが、低用量ピルの有益性(避妊、月経調節、月経痛や月経過多の改善、月経前症候群の症状改善)は大きい。
♦ 低用量ピルを服用していない女性の静脈血栓症発症のリスクは年間10,000人あたり1-5人であるのに対し、低用量ピル服用女性では3-9人
(妊娠中、分娩後12週間の静脈血栓症の発症頻度は、それぞれ年間10,000 人あたり5-20 人および40-65人と報告されており、妊娠中や分娩後に比較すると低用量ピルの頻度はかなり低い)
♦ 静脈血栓症発症により、致死的な結果となるのは100人あたり1人で、低用量ピル使用中の死亡率は10万人あたり1人以下(カナダの報告)
♦ 低用量ピル内服中に以下の症状を認める場合には医療機関を受診して下さい。
A:abdominal pain  (激しい腹痛)
C:chest pain (激しい胸痛、息苦しい、押しつぶされるような痛み)
H:headache (激しい頭痛)
E:eye / speech problems (見えにくい所がある、視野が狭い、舌のもつれ、失神、けいれん、意識障害)
S:severe leg pain (ふくらはぎの痛み・むくみ、握ると痛い、赤くなっている)

以前から知られているとおり、喫煙、高年齢、肥満は低用量ピルによる静脈血栓症の発症リスクが高くなりますし、内服開始のから最初の3ヶ月、特に最初の1ヶ月に血栓症を起こすリスクが高いこともすでに知られています。ヤーズが、他の低用量ピルと比較して血栓症のリスクが高いかどうかについての疫学的研究はなされていますが、絶対的な報告はありません。ただ、今回報告されている3症例をみると、問診上血栓症のハイリスクと考えられる症例では他剤を検討する余地があると思われます。

ヤーズを内服してきて心配になり、来院された方の声をお聞きしていると、他剤への変更よりも低用量ピル自体の中止を希望される方が現時点では多いです。リスクとベネフィットを考慮し中止、変更は選択すればいいと思いますが、ヤーズからの変更の手段としてはエチニルエストラジオール量含有が20μgと、ヤーズと同じく少ない『ルナベルULD』への方法があります。
また、バイエル薬品によりヤーズに関する相談窓口ができました。専用ダイヤルで24時間365日対応していただけます。

画像1

正しく情報を手に入れ、ご自身の状態、環境に合わせた選択をなさることをおすすめします。

関連記事