第28回 日本臨床スポーツ医学会 学術集会 その1

私が大切にしている4つの学会のうちの1つ、日本臨床スポーツ医学会の学術集会が開催されました。今回は慈恵医大 脳神経外科学講座が主管の学会でした。臨床スポーツ医学会に参加する医者のうち、多くは整形外科医、リハビリテーション科医。そうなると、そもそも脳神経外科学講座がスポーツ医学会の準備をするということ自体がハードルの高いものであり、その他内科、婦人科の準備となるとより専門外となるわけで、準備は想像以上にたいへんなものとなりました。

今回、学会長である谷教授のご理解と大きなご協力をいただき、これまでの臨床スポーツ医学会にはなかった2つのセッションを企画・開催いたしました。これらのセッションについてお伝えしたいと思います。

1 スポーツ医学を他の世界と繋ぐ取り組み

「スポーツの現場における医療行為と関連法」と題し、大学スポーツの現場を知るさまざまな立場のプロフェッショナルが討論を行いました。

・医学的に慈恵医大脳神経外科学講座

・経営者もしくは投資家としての立場から株式会社ドームの安田社長

・運動指導者の立場から慶應大学野球部大久保監督

・法を整備する政治家の立場から後藤田正純衆議院議員

たとえばアメリカンフットボールの試合ではケガが起こることが十分に予想されるわけですが、ケガが起きた時にチームドクターが診療所ではない現場でどこかから持ち出した痛み止めの注射を打つ、これは現行法では当然アウトな行為なわけです。しかし、チームドクターが何を求められて現場にいるかと言えば、現場での即時の治療行為を求められているケースが多いわけで、法律上はアウトな行為を期待されている、と言えなくもありません。

他にも、プロアスリートとして思いっきりプレーして肩のケガをした人が、保険診療を使って治療するのはアリなのか。例えばダルビッシュ選手はアメリカで手術を受けるために相当の費用を負担していると思われますが、日本でプロの選手が、レベルの高い手術を受けられるという徳島大学医学部で手術を受けたとしても、保険診療だという違和感。

こういった現状と現行法の乖離状態は、ドームにおいて社長や後藤田先生、帝京大学ラグビー部の岩出監督や大久保監督とは普段から普通に話す話題です。それをもっと多くの人にお聞きいただき、一度考えていただく機会になったらと思っておりました。

医療費が青天井の現在、ケガが予想される現場における受傷は本来通り自費診療として正しく取り扱われるべきで、そうなってくると今後はオペレーターによって手術費用が異なる、麻酔科医によって麻酔費用が異なることも、ある意味当たり前の時代がやってくる可能性が高いのではないかと思っています。

この討論は、学会とは思えないくらいのナチュラルなやり取りであり、現状を自ら変えていこうとする気のない、もしくは変わらなくてはという危機感のまったくない、もしくは変わらないだろうと諦めの境地にいる、と言えなくもない私たち医者が、もっと先頭切って前向きに医療費=社会保障費削減のための提案をすべきだと思わせていただきました。

学会では、徳島出身である後藤田先生のご紹介で、徳島大学整形外科の西良教授ともご挨拶させていただきました。来年の日本整形外科スポーツ医学会学術集会は徳島での開催です。なにか、良いご縁になればと思っています。

このセッションにご参加いただきました皆さん、ありがとうございました!

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