医者の役割とはなにか

医者の役割とはなにか。
もう一度考えさせられる出来事がありました。

以前、私が低用量ピルを勧める方とはどんな方なのか、そんな内容についてめずらしく医学的に踏み込んだBlogを書いたことがあります。本人が処方を希望して来院されたケースを除き、私が低用量ピルを治療目的にお勧めする場合というのは、この方が低用量ピルを使えば必ず今悩んでいることは解決される、解消まではいかなくとも改善はする、そう心から思う場合です。その確信が自分の中にあるからこそ、低用量ピルをはじめるかはじめないか悩む方の背中を押すことができるわけです。処方するこちらに迷いがあったら、そもそも低用量ピルをはじめる なんて選択肢のなかった患者さんに低用量ピルを使いはじめる なんて選択をしてもらうことはできませんから。

そもそも低用量ピルが選択肢になかった方にやっとのことで飲みはじめてもらえた、そんな思いではじめた低用量ピルも、最初の3か月間はさまざまなからだの変化を感じるケースが少なくありません。しかし、その変化のうちのほとんどは3か月以内に気にならなくなり、そのまま継続が可能となるわけですが、医者を含む他人に勧められて飲みはじめた方では、はじめの3か月の間に内服をあきらめてしまうケースも散見されるのが現実。飲みはじめてからだの変化を感じ、飲み続けるべきなのだろうかと迷いが生じたとき、いかに不安を感じず続けてもらえるか、そこが私たち医者があらかじめ話しておく「起こり得る可能性」についてどれだけ伝わっているかの違いだったりします。

こんな ご本人の迷い と 私の思い の交換を何度かやりとりしたあと、ようやく安定して飲み続けることができるようになったころにその出来事は起こりました。

低用量ピルは定期的に飲むものですから、決められたタイミングで新しいシートに移る必要があります。そんなときに、処方箋をもらいにくることができなかった場合。もちろんそのお薬はどこの産婦人科でも処方してもらえるものですから、私のところではない医療機関で処方の継続をお願いしたとのこと。したら、

40歳を超えているという理由だけで処方してもらえなかったばかりか、
「10人に9人の医者はあなたの年齢の人に処方しないよ、死んだり足が動かなくなっても良いの?」
という言葉をかけられたそうです。

現在、私が処方している低用量ピルの処方に際し明確な年齢の制限はなく、当然、40歳を超えた人に処方を続けてはいけない という能書きもありません。そのため、リスクを正しく理解した上で50歳の閉経前まで続ける方は私のところでも他の医療機関でもおり、これがものすごくレアなケースというわけでもありません。
もちろん私が薬を処方する場合、薬を選択する以上何かしらのリスクがあるということを本人と私とで共有し、それ以上のベネフィットがあることを本人と私とで確認して選択しているわけです。どれだけ薬を継続するかの迷いを乗り越えて今に至った人なのか、どれだけ処方した医者と意思の疎通を持ち内服継続を選択しているのか、そんな背景を知らずして、私だったらそんな言葉はかけません。かつ、勉強を続けている医者であれば知っていて当然のことを知らずに医者という業務を続ける、という無責任な状況が生んだ出来事と言わざるを得ない。

私のところへ、私とは違う見解で治療をしている方がたまたまいらっしゃる場合はあります。そんな際、どう言葉をかけるかと言えば、一般的な話しをするならば、今あなたがなさっている治療法は一般的なものとは言えません。でも、一般的ではないことを選んでいる理由があるのかもしれないので先生に相談してみてくださいね、そう話します。

こんな出来事に逢い、医者の役割ってなんなんだろう、心底からそう考えてしまいました。


私は悩みつつ迷いつつも私の言葉を信じ、自分の選択を信じてくれた人の人生を支えます。
リスクをきちんと見極めることによってベネフィットを少しでも大きくできるよう、私自身が学ぶ機会をつくり、経験を積み重ねていきます。そして先人が築いてくれたせっかくの西洋医学の恩恵を、必要な方に必要とされるかたちで届けるべく努力を続けます。

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