低用量ピルを処方する際に私が心がけていること

普段、今回のような疾患や治療についての話題をこのBlogで取り上げることはありません。ただ、私が携わっている外来でよく経験するケースから、何度となく同じようなことを感じたことがあったため、今回は低用量ピルについて取り上げたいと思っています。

ご存知の方も多いと思いますが、そもそもピル(エストロゲン+プロゲスチン配合剤)は排卵を抑制することによる避妊目的に使用されていました。その後、配合量が減量されていき、気持ち悪さ、胸が張る、重篤な血栓症などの副作用を減らす努力が続いています。またその副効用として月経痛が軽くなる、月経量が減る、にきびが改善する、月経周期を整えられる、などがあり、月経痛や月経不順、月経前症候群などに対し治療目的を含め使われるようになってから、もうずいぶんになります。ただ、日本でのピル使用率は欧米と比較にならないほど低く、その理由はピルのベネフィットとリスクをきちんとユーザーである女性に伝えられていない現状があると考えています。

私自身が外来でピルを処方する際、自分の中で”ピルをものすごく勧めたい人かどうか”をはっきりさせています。私がものすごく勧めたい人は、以下の方。

・子宮内膜症がある方(超音波検査で子宮腺筋症・チョコレート嚢腫=子宮内膜症性卵巣嚢腫 を認める方)
・超音波検査上 異常がなくても、上記の副効用のうち2つ以上を期待したい方(たとえば 生理前の調子が悪くて生理痛もひどい人)
・ピルで改善できると考えられる症状で、ものすごく困っている方
・アスリートで、上記副効用を期待したい人

ピルを飲んだらこの人きっと楽になる! って思える患者さんに、どれだけ熱意を持って勧められるかどうか。

「前にハワイ行くときピル飲んだんですけど、そのとき気持ち悪くなったからピルはちょっと…」
そう言われたらなんて答えるか。

「前に一度ピル飲んでみて、何日かで気持ち悪くなったのですぐやめました」
そんな人に、どんな方法を示せるか。

本気でピルを続けてほしい、この人がピルを続けたらきっと楽に過ごせる って思う患者さんだったとしたら、その方にちょっとやそっとのからだの変化があったとしても、そんなこともあり得るって言われたよな って不安を払拭し、ピルを続けられるだけのお話しをあらかじめしないと。そう思って私は話します。飲みはじめてすぐの頃に起こりうる、飲むのをやめちゃいたくなるような可能性についてのお話しを。そこを乗り越えて飲むのを続けてくれたら、今 困ってることはきっと良くなるから、そう思える人には特に。

でも、本人はピルに抵抗なく なにも問題なく処方できたのに、家に帰ってお母さんやおばあちゃんの大反対にあってしまい、残念ながら継続を断念するケースだってあります。

低用量ピルを避妊目的で使用する場合は “避妊したい” という目的が明確であるため、継続するのに手間取ることはそれほど多くないです。でも、この人にはぜひ使ってほしいのに、という方に限って、以前になんらかのトライアルをして早々に断念しているケースが少なくないのです。どれだけの熱意を持って医者から勧められたか、起こりうるからだの変化に対して どれだけ不安を除き安心を届けられたか、そこにかかっているわけ。

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私が、自分が女性の産婦人科医でよかった と思うことは、いろいろなことを自分のからだで試してみて、感じることができること。もちろんピルも漢方もサプリメントも、いいと聞いたOTC薬も、なんでも試してきました。だからこそ伝えられる体感のちがい、印象などなど。そのあたりを含めてお伝えできるところが自分も女性で本当によかったことと思っています。

当然ですが、誰でも彼でもピルを とは思っていません。でも、きっと使ったらより楽に毎日を過ごせるだろう人が、ほんのちょっと説明が足りなかったため、ほんのちょっとの医者の努力不足のため、現代医学の恩恵を受けられない なんてことは避けなければならないと思っています。
これはピル内服を止める年齢についてもしかり です。40歳を超えたから、45歳を超えたから血栓症が危険 と、単純な数字上の判断で医者が内服中断を指示し、その後の生活がつらくて来院される方は実際にいらっしゃいます。

医療者側がガイドラインに沿った適切な情報提供をすると同時に、一般的なベネフィットとリスク だけではなく、その方自身にとってのベネフィットとリスクをきちんと伝えること。この方には本気で使っていただきたい、使い続けていただきたい、そう思う方にはこちらからも本気で伝えること。本気であれば伝わることもたくさんあるでしょう。

低用量ピルの使用についてお悩みの方、迷っておられる方は、ぜひ一度かかりつけの婦人科の先生に質問をしてみてくださいね。きっと適切なアドバイスがあると思います。

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