外来診療はトレーニングです

医者にとって外来診療が大切であることを先のBlogでお伝えしました。もちろん医者にもいろいろな種類の医者がおりますから、基礎研究を長年担当してくれる医者も、予防医学をメインとした仕事をしている医者も、検診業務をメインとしている医者も、緩和医療を担っている医者も、在宅医療のためにクリニックから出て仕事をする医者も、それぞれみな大切な仕事です。そういったいろいろな業務の中で、私にとっては患者さんの顔を見て話を聞き、困っていることをどうにかできないかと一緒に考える。そんな仕事が大好きであり、一番大切に思っている業務です。

大学病院で5年間の臨床研修を終えた医者がどのくらいの外来スキルを持っているかというと、
大学病院にずっといたからこそ、大学病院での外来はほぼ担当してこなかった
+研究日と呼ばれる外勤の日に外勤先の総合病院(もしくはクリニック:5年目くらいまでだと外勤先も上席の医者がいてくれる総合病院にしか行けない。クリニックでの外来は、ひとりですべてを判断する必要が出てくるため、5年目の医者では務まらないケースがほとんど)で週に1回午前中の外来を担当し、やっと身についたスキル
+当直時間帯にやってくる患者さんへの対応から身につけるスキル
これくらいしか外来のスキルを身につけられるチャンスがなく、5年間をすごしてきてしまうわけです。(科によっては異なることもあります)

これが総合病院クラスで5年間を過ごしてきた医者であれば、週に4日は午前中外来で午後は手術、1日だけ午前中病棟管理で午後は手術、合間のお産はほぼすべて呼ばれて行く、みたいな臨戦態勢で育つわけです。当然、当直の頻度も大学病院の5年目よりは多いです。平日3回土日どちらか1回、非常勤(大学病院ではない当直先)の当直が週に1回の合計月に8日 が平均的な大学病院の5年目の医者 であるのに対し、総合病院勤務の5年目であれば 平日週に2日、土日を丸々まとめて2回、合計12日当直。そんな感じですから、目にする症例数、接する患者数は間違いなく差があるわけです。(この当直回数は産婦人科医のケースです)

外来ではどんなスキルが必要とされるのか。それを考えてみました。
かゆみがあって来院した患者さんのおりものの検査でカンジダがいました。じゃあ薬を出します。これは誰だってできること。では、かゆみがあって来院して外陰部の診察、おりものの検査などしてみたけれどなにもない、そんなときにどんな説明をしたら患者さんが納得しておかえりになるか。要は症状と検査結果が合わないときどう説明するか。他にもホルモンの血液検査結果をどう読むか、なにを求めて来た患者さんなのかを把握するコミュニケーションスキル、このあたりは経験した症例数次第、要は場数 なわけです。

また経験の積み重ねとは別に、外来診療において私が何よりも大切にしていること、それは次のことです。

 私を産婦人科医に導いてくださった名古屋大学の加藤千豊先生から教わったこと。

病棟にいる患者さんは、たとえ君のその時の判断が間違っていたとしてもどうにかなる。病棟にいてくれるからこそ他の誰かが気づくから。でも、外来ではその場での君の判断が間違っていたら、おうちに帰った患者さんが死んでしまうことだってある。(たとえば子宮外妊娠を見逃すと数時間後に腹腔内出血で亡くなってしまうケースがあります)だからこそ、外来での判断は慎重 かつ 出来る限り正しくなくてはいけない

15年以上経った今も、先生がおっしゃったとおりだと思っています。
もちろん、判断ミスによって亡くなってしまうケース というのは極端すぎるかもしれませんが、目の前に患者さんがいる短時間のあいだに判断をする必要がある、それが外来診療です。(その場で出ない結果は次回に聞きましょう、というのは帰宅してもよい という判断がされた という意味であるわけです)千豊先生からいただいたこの教えをいつも胸に、外来診療に臨んでいます。

外来ではいろんな質問が幅広く飛んできます。教科書やガイドラインをまるまる頭に入れれば対応できるような直球ばかりではなく、自分の専門以外の球も普通に飛んできますし、専門とする分野の中でも一筋縄ではいかないような変化球もあり、なんでもあり、いろいろ飛んでくるのが外来。それらの球すべてに対応する必要があります。教科書には載っていないような表現でバリエーション豊かに訴えてくる患者さんの悩みを聞き、思いつくすべての疾患を念頭に問いかけをし、目で見て手で触れて診察をし、多すぎず少なすぎずの検査をし、今あるお悩みを解決できる方向へ向かうようななにかをお持ちいただいてお帰りいただく。
来てくださったすべての方が 今日は来てみてよかった、そう思っていただけるようななにか=それは治療だったり情報だったり安心できる理由だったり。そんななにかをお持ち帰りいただければと願っています。そのために、どんな球が飛んできてもキャッチできる。どんな球が飛んできても打ち返せる。そんなスキルを身につけていくためのトレーニングと考えて、たくさんのみなさんとお会いする外来を楽しんでいます。

ちなみに本日日曜日朝の9時半から夜8時までの外来総人数は84名でした!ご一緒いただいたスタッフのみなさま、お疲れさまでした!

関連記事