現代医学と代替医療をつなぐ

日本における私たち医師は、医師免許を取るために現代医学の勉強をします。実際には医学部の6年間でたった1-2時間のみ、漢方薬についての講義を聞く 以外はすべて現代医学の講義であり、代替医療について学ぶ、知る機会はほとんどないのが現実です。

アメリカでは現代医学の医師が医師免許を持ったうえで、サブスペシャリティとして代替医療の実践もしている病院や大学があるくらい。そのくらい代替医療が市民権を持ち、かつ役に立っているわけですが、日本で国が認めた(=健康保険の適用がある と考えれば)代替医療は今のところ漢方薬と一部の鍼灸のみ。血液検査や画像検査で異常を指摘できないからだの不調が多く見受けられる現代において、現代医学以外の治療法を取り入れやすくしていく必要があると思っています。

私は現代医学を学んできましたが、ヨガなどを通して現代医学以外の”なにかいいもの”(=代替医療を含む)を併用するメリットをお伝えしてきました。私がさせていただいているお仕事を 
①標準的治療を推奨する産婦人科医
②婦人科スポーツドクター
③ヨガの世界でヨガと医療の融合をはかる役割 
大きくこの3つにわけるとすると、②婦人科スポーツドクターとしての仕事と ③ヨガの世界での仕事 はある意味対極にあると言っても過言ではありません。 

というのは、婦人科スポーツドクターとしてはエビデンスに基づくばりばり最新の現代医学でアスリートをサポートするわけですし、ヨガを続けてきた者としては現代医学の弱い部分、現代医学では出せないこたえを代替医療に求めたりするわけですから。

どちらか片方の私と出会った方が、もう片方の立場で話す私の話しをお聞きになったときに違和感を感じる方がおられる可能性はあることでしょう。しかし、私の中で何かを変えているということはまったくありません。現代医学の強い分野では現代医学をチョイスし、現代医学が弱い部分においては代替医療の強みを生かす、場面場面、ケースケースにおいてそういった選択をしているだけのことだからです。

スポーツ医学は明らかに現代医学が強いカテゴリーです。だからこそ現代医学に大きな比重を置くべき分野と考えています。スポーツ医学のその先にあるゴールが”健康で穏やかな幸せ”ではなく、”勝つこと”だからです。だからこそ、世界でエビデンスがあると言われている方法を選択し、ベストのコンディションを作る。勝つことが目的だから。ただ、その先に運動を続けることによる健康 であったり スポーツのある豊かな人生 という、運動による恩恵が待っていることは間違いありません。

私が運動指導者やからだに携わる職種のみなさんにおすすめしたいことは、現代医学の恩恵も受けつつ、代替医療にあたるテクニックの恩恵も受けることによってクライアントのコンディションを良くしていく方法です。現代医学でカバーできない部分を得意とする代替医療は存在すると思っていますから、その両方をチョイスすることでそれぞれの弱い部分を補い合えるのではないか、そんな思いからです。

さらに、どちらかを否定することはしたくないと私は思っています。なぜなら、それぞれのすべてを知っているわけでも理解しているわけでもないのに、知ってもいないことを否定することはできないから。鍼灸の神髄を私が理解できているかといったら、鍼灸の”し”の字も知らないくらいでしょう。ただ代替医療と呼ばれるカテゴリーには、名前を聞いたことがある くらいのマニアックなものからかなりスピリチュアル寄りなものまで幅広く存在するのも事実で、すがるような気持ちでその方法を信じようとする方を裏切るようなことだけはあってはならない、それだけは強く思っています。

ちょこちょこ読んでいるアロマテラピーの専門誌で、”卵巣嚢腫がこれとこれのブレンドオイルで消失した” という症例報告を目にしました。”卵巣は正常でも一時的に腫大して見えることがあり、生理周期のどのタイミングに見るかによって大きさや形が変わるものである” ことを知っていれば、この症例の卵巣嚢腫の消失がブレンドオイルの効果ではなく、時間を経て見えなくなるべくして見えなくなった変化である。そう判断できるわけです。
代替医療において効果効能を追いたくなる気持ちもよくわかります。でも、はっきりと言葉で表せない、数字でクリアに出ない、そんなところに代替医療の効果効能があるのではないかと私は思っています。そしてその効果効能は、はっきりしていないかもしれないけれどクライアントにとってプラスになり得るということ。

現代医学をあまり良しと思わない治療家、代替医療に近い実践者のみなさんにも現代医学のメリットはメリットとしてとらえていただいて、そこにご自身の手技だったりをプラスすることで、クライアントにとって一番望ましい状態に近づけるという方法をぜひ一度お試しいただきたい。
現代医学を担う者の中には数字だけを見る医者もいるかもしれません。カロリーだけ話す栄養士もいるかもしれません。でも、それだけではない人たちもいます。目に見えるものに心を向けそれをきちんと捉えた上で、目に見えないものにも心を向けていきたいものです。私はそう願っています。

私自身がこの先生のお話しを聞いてみたい!と思ったドクターを見つけた際、その先生のプロフィールを拝見すると、ご自身の専門分野ではない東洋医学などに時間を費やした経歴をお持ちの先生が多いことに気がつきました。きっと現代医学の医師にも代替医療の知識は必要なんですよね。そのことに気づいたドクターは自らそのために時間を費やすでしょうし、一生相容れることなく過ごすドクターもいるのは現在の日本の医学教育によるものと考えざるを得ません。
私自身これからもさらにエビデンスの高い代替医療を学び、現代医学と代替医療をつないでいきたいと思っています。


先日の”女性のからだと自律神経”の講義にご参加くださいました治療家の方が描いてくれた私の似顔絵。ありがとうございました。

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