強い人がもっと強くなる瞬間

先日、子宮頸がん検査で異常を指摘され、精密検査をお受けになった方が結果を聞きにこられました。結果は要経過観察ではあるものの、急いでの処置や手術は必要なく、精密検査時に心配のあまりやや取り乱しておられたその方は安堵の表情を浮かべられました。

お話しを聞いてみればその方は社会的にも立場のあるお仕事、肩書をお持ちであり、かつ毎年の健康診断ではオールA(すべて異常なし)で過ごしてこられた方。そんな彼女が今年の健康診断で『子宮頸がんの疑いがある』と言われ、あっという間に不安の日々を迎えたそう。イーク表参道で精密検査の日にお会いした彼女は、多くの方がそうであるように『がん=死』を強くイメージしておられ、涙を浮かべておられました。

精密検査当日、当院でここ3年間におこなってきた子宮頸がん検査の精密検査結果の積み重ねを元に、彼女が急いで手術を必要とする可能性はそれほど高くないこと、現在はあくまで前がん状態であり、『子宮頸がん』とは一線を画すものであるということ、などをお話ししたところ少し落ち着かれ、無事に検査をお受けになってお帰りになりました。

それから2週間。結果を待つ身にはきっと長い時間であったことでしょう。取り急ぎの心配がないという結果をお伝えしたところ、今度は安心の涙を流しておられました。

彼女はこれまで、仕事で出会った方や部下が大腸がんにかかったり、彼女と同じように子宮頸がんの検査で引っかかったりしたことを相談されたりお話しを聞いたりしたことがあったそうです。しかしご自身がずっと健康優良児=優良人であられたことから、『がん』という言葉に恐れを抱く方に対し、親身になって話しを聞くこともなければ、寄り添って考えることもなかったとのこと。これからは人の弱さへも心を寄せられるようになる気がする、とおっしゃっておられました。

私には強い人がより強く、かつやさしくなった瞬間のように思えました。
人の痛みを知る、人の弱さを受け入れるって言葉面では簡単そうにも聞こえますが、実際はなかなかできることではありませんから。

小さな病気、小さな異常を経験することで自分のからだに対してよりやさしくなる、気をつけるようになることはとても理想的ですし、まわりにいる悩みを持った人や弱い方への配慮が変わることも素敵な変化だと思っています。自分の身に起こったからこそ初めて気づけることだと思いますし、こういった出来事を経験したことのない方が本当に”変わる”って難しいとも思っています。

今回身をもって貴重な経験をされた彼女を、引き続き慎重に診せていただこうと思っています。

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