遺伝子検査を取り入れるにあたって

私が大学院のころ取り組んでいた課題は、『卵巣がんにおける遺伝子変異による抗がん剤耐性のメカニズムの解明』。卵巣がんには漿液性腺がん、粘液性腺がん、明細胞がんなどの組織型が存在します。それらの手術所見(術後のステージ分類=がん進行の度合い、残存腫瘍径=手術後にからだの中に残されるがん組織の量、腹水細胞診=腹水にがん細胞が存在したかどうか など)と術後使用した抗がん剤の種類、術後の生存期間、再発までの年数などをまとめ、手術で採取した組織から得られる遺伝子異常とどのような関連があるかを調べてきました。

この研究は、慈恵医大の婦人科腫瘍チームが長年にわたって取り組んでいる課題であり、私がそのごくごく一部を担ったわけです。

どの遺伝子変異をもつ卵巣がんでは、この抗がん剤がより有効である。とか、どの遺伝子変異をもつ卵巣がんでは抗がん剤を使用してもしなくても予後が変わらない。とか、それぞれの遺伝子変異のタイプによって術後の治療方法を選択する理由にできるようなデータが蓄積できれば、いずれは卵巣がんで手術を必要とする方にオーダーメイドの治療法を提示できる。そんな壮大な目的があっての研究です。

大学~大学院時代にこんな取り組みを続けてきた私にとって、昨今世の中で出回りはじめた『簡易的な遺伝子検査』が気にならないわけはありません。今日、遺伝子検査を取り扱う会社とのミーティングを開きました。

今回検討している検査方法は、唾液による大規模なゲノム解析によって約30万種類の遺伝子を測定するもの。疾病のリスクや体質の傾向、不足しがちな栄養素、祖先のルーツまで結果が出てきます。心筋梗塞、糖尿病、高血圧、肝機能異常といったそこそこ予想できるような項目からハゲ、痛風、アトピー、片頭痛などこっそり気になる項目まで。この結果には食習慣、運動習慣、飲酒喫煙など現在の生活習慣は加味されませんから、持って生まれた素質を知ることができるわけです。

ただ単に人間ドックの項目に遺伝子検査を組み込むだけでは面白くもなんともない。ということで、近い未来により役立つと思われる独自の解析を加えられるよう考えています。

まずは私自身がトライしてみます。結果についてはこちらのblogでも共有したいと思っています。お楽しみに!

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